尿が出にくい、勢いが弱い
排尿に関する症状は様々なものがあります。尿意を感じているのに尿が出にくい「排尿困難」、お腹に力を入れて息まないと尿が出ない「腹圧排尿」、若い頃と比べて尿の勢いが弱いと感じる「尿勢低下」、排尿の途中で尿が途切れてしまう「尿線途絶」などが挙げられます。
尿は腎臓で作られ、尿管を経由し膀胱に貯留します。膀胱に尿がある程度貯留(通常400ml程度)すると、膀胱の壁が伸展することで起こる伸展刺激が、大脳皮質の排尿中枢に伝わります。この刺激を受け取った大脳から、今度は排尿を指令する刺激が膀胱に伝わり、膀胱が収縮し尿を膀胱の外へ押しだし、それと同時に膀胱の出口と尿道が広がることでスムーズに排尿が行なわれます。
尿が出にくくなる原因には、膀胱から尿道までの尿の通り道に何らかの通過障害があること、膀胱の収縮が上手く起こらなくなることがあります。通過障害の原因としては、男性では前立腺肥大症が最も多くなり、膀胱の収縮障害の原因は、男女ともに神経因性膀胱が挙げられます。
尿が出にくい(排尿困難)原因
前立腺肥大症(男性)
前立腺は男性にのみ存在する膀胱の下にある組織でクルミのような形をしており、尿道を取り巻くように存在しています。
前立腺は内腺(尿道に近い部分)と外腺(内線を取り巻くように存在する外側の部分)からなり、前立腺肥大症は内腺が大きくなる病気です。
前立腺肥大には男性ホルモンなどが影響すると言われており、一般的に年齢とともに肥大は進行していきます。
尿道の圧迫や尿道の抵抗が増大することで、排尿困難、頻尿、残尿感などの症状が現れます。
前立腺がん(男性)
前立腺がんは、中高年の男性に多く見られる前立腺の病気です。
前立腺がんの発症には男性ホルモンが関係していると言われており、加齢による影響として、ホルモンバランスの変化が要因となっているものと考えられます。
前立腺がんは前立腺肥大症と違い、前立腺の辺縁に発生することが多く、初期の段階では無症状であることが多いです。
排尿困難などの症状は、前立腺がんに併存して発症している前立腺肥大症の症状であることが多いです。前立腺がんはゆっくり進行することが多いので、早期発見で治癒可能ながんの一つです。
尿道狭窄
尿道狭窄とは、何らかの原因で尿道が損傷し、その修復過程で尿道が繊維化や瘢痕化することで内腔が狭くなった状態です。
尿道の内腔が狭くなることで、排尿困難などの症状が現れます。尿道狭窄の原因としては、尿道の外傷、淋菌やクラミジア感染などによる尿道炎、膀胱鏡など尿道内の操作を伴う医療行為、硬化性苔癬という皮膚疾患の尿道への進展などがあります。
治療法は尿道狭窄の程度によって様々です。尿道狭窄の程度が軽度である場合は、ダイレーターと呼ばれる尿道拡張用の管を用いて段階的に尿道を拡張したり、内視鏡で尿道を切開して尿道を拡張します。重度の場合は、狭窄部位の尿道を切除して健常な尿道同士をつなぎ合わせたり、頬の粘膜などを用いて尿道の材料として尿道を再建する、尿道形成術を行ないます。
神経因性膀胱
脳や脊髄などの病気により排尿をコントロールする神経が障害を起こし、膀胱にしっかり尿を溜めたり、正常な排尿ができなくなったりする状態です。原因としては、脳梗塞やパーキンソン病など脳の病気や、脊髄損傷や腰椎椎間板ヘルニアなど脊髄の病気、糖尿病や子宮がん・直腸がんなど骨盤内の手術による末梢神経の障害などがあります。また内服している薬剤の影響で、神経因性膀胱ようの症状を呈するものもあります。膀胱収縮力を弱くさせる薬剤や膀胱出口の圧力を高める作用のある薬剤で、精神安定剤や総合感冒薬などがあります。
神経因性膀胱の治療においては、腎機能の保護や尿路感染の予防が大切となります。
原因となる病気により治療法は様々ですが、薬物療法でのコントロールが困難な際は、尿路管理として清潔間欠的自己導尿や尿道留置カテーテル法が選択されます。
前立腺炎
前立腺炎は、前立腺という男性のみに存在し、膀胱の下に位置する尿道のまわりの組織が何らかの原因で炎症を起こす病気です。
急性か慢性か、あるいは細菌感染によるものかそれ以外かによって炎症の種類が分類されます。
症状としては、急性では高熱、排尿時の痛みや排尿困難、慢性では下腹部や会陰部、そけい部の不快感、排尿時の痛みや不快感などがあります。
骨盤臓器脱(女性)
骨盤臓器脱とは、女性特有の病気で、子宮、膀胱、直腸といった骨盤内にある臓器が徐々に下がり膣外に出てくる病気です。
これらの臓器は普段は骨盤底筋群というものによって支えられているのですが、出産や加齢によって骨盤底筋群が緩んでくると臓器を支えきれずに下がってきます。
下がる臓器によって、子宮脱、膀胱脱、直腸脱と呼ばれます。
これらの臓器が下がってくると、違和感のほか、頻尿や尿漏れ、排尿困難などの症状を伴うことがあります。
骨盤臓器脱の治療法ですが、保存的治療としては、骨盤底筋訓練、ペッサリーという膣内装具の挿入があります。重症の場合は手術療法も検討されます。
尿道カルンクル
尿道の出口にできる良性の腫瘍で、閉経以降の中~高年の女性に多く見られる疾患です。
血流が豊富であり、尿道からの出血や疼痛を主訴に受診されることがあります。小さいものは無症状なことが多いですが、大きくなると排尿困難の症状が出ることがあります。良性の腫瘍であり、摘除する必要はありませんが、出血や疼痛など症状が強い場合は手術も考慮されます。
尿が出ない状態が続くとどうなる?
尿が出ない状態が続くと、膀胱内に尿が多量に貯留し、尿意があるのに排尿できない尿閉という状態になります。また膀胱内に貯留した尿が腎臓に逆流し、腎臓が尿で拡張する水腎症を呈することもあります。腎機能障害や尿路感染症のリスクとなるので、尿が出にくい或いは出ない場合には、我慢することなく泌尿器科までご相談ください。
尿が出ない時の治療方法
排尿が困難になっている原因を検査等によって診断し、その結果に応じて治療方法を検討します。
治療法に関しては、排尿困難の原因疾患によって異なります。
詳細は各々の疾患の説明文をご参照ください。
緊急時は、細いカテーテルを尿道の出口から挿入し、膀胱内に貯留している尿を排出する導尿という処置を行ないます。